卒業制作展2018レポート 【メディアデザイン領域?後編】
五感を駆使して伝えるメディアデザイン領域?後編
一瞬たりとも目が離せない3DCGアニメーション
一部のアニメーション?CGコースと、映像?放送コースの作品は、「SEIAN CINEMA 2018」として京都シネマで上映されました。
映画館の大スクリーンで観る作品は、モニター展示とは異なり、1作ずつ集中して鑑賞することができます。
なかでも、観客席が「おっ!」と全員前のめりになったのが、優秀賞「Reversible HEART」(仲里佳祐さん/アニメーション?CGコース)。桃太郎をモチーフに展開されるCGバトルアニメーションは、キャラクターデザイン、3DCGのモデリング、キャラの表情からアクションに至るまでの動きやカット割り、そして音楽に至るまで、プロ顔負けのクオリティ。
どうやって制作したの? 気になる制作秘話
一体どうやって制作したのかが気になり、仲里さんに制作秘話を聞いてみました。実は仲里さんは1?2年生まで総合領域、3年生でアニメーション?CGコースに変更したのだそう。えっ!? わずか2年間でこんなクオリティの3DCGがつくれるもの……?
まずは卒業制作展から約1年前、3年終了時に仲里さんが制作した「スシドウ」を観てみましょう。
3DCGアニメーションをつくる工程はいくつか段階があり、まず最初は企画。「スシドウ」の場合は就活で見せられるものをつくるという目的が企画になります。次に、ストーリーやキャラクターを決め、絵コンテを作成。その後、モデリングをして骨組みを入れ、キャラクターを動かし、最後に映像を編集して、音を付けます。
「スシドウ」制作時、CG歴1年だった仲里さん。いくら考えてもストーリーが面白くならないことに悩み、シェアハウスに住んでいた先輩に相談。すると、「真面目に考えすぎるねん。もっとくだらんこと考えたらええやん」とアドバイスをもらい、その場で盛り上がったストーリーは、それまで数ヶ月悩んでいたものよりも格段に面白いものだったとか。
「そのとき、自分ひとりでつくるよりも、得意な人たちの力を借りようと思いました。卒業制作ではアニメーションやキャラクターの感情表現等、自分の得意分野でもっと掘り下げたい部分がいろいろありました。なので、苦手な部分までひとりで作ろうとはせず、僕が日頃”この人にはかなわないな”と思っている人たちに声をかけたんです」
そこで、卒業制作では、東京のゲーム会社でデザイナーとして働く先輩にストーリー構成とキャラクターデザインを依頼。演出や絵コンテは映像?放送コースの松田淳生さん、音楽はイラストレーションコースの寺西 大さんにお願いすることに。仲里さんは、監督?プロデューサー?制作進行?CGアニメーション制作を担当。こうして“最強チーム”で挑んだ卒業制作の作品が、優秀賞を獲得した「Reversible HEART」だったのです。
「いろんな人の力を借りて、やりたかったことが達成できた今、4年間を振り返って思う成安の魅力は、コース間の敷居の低さだと思います。他コースの先生も相談に乗っていただいて、やりたいことをサポートしてもらって、いろんなことができたので“成安に来て良かったな”と思いました」
物語が進むにつれて引き込まれた
38分の長編作品
同じく、「SEIAN CINEMA 2018」で上映され、映像?放送コース優秀賞に輝いた作品は、仲里さんの作品で演出と絵コンテを担当していた松田淳生さんの「五感の質屋」。
ある男性が不思議な質屋に辿り着き、難病の娘の寿命を延ばすために、五感をひとつずつ質に入れて失っていく――。38分の長編ながら、メリハリのあるカット割りと演出でぐいぐいお客さんを引き込み、最後にはホロリと涙する人の姿も。
キャストやロケ地はどうやって用意したのか? どんなふうに制作したのか? 松田さんに制作の裏側を聞いてみました。
実は松田さん、1年生のときはイラストレーションコースだったそう。1年間授業を受けるうちに「仕事としてイラストを描き続けたいわけじゃないな」と思い、高校時代は演劇部に所属し、芝居が好きだったこともあり、映像の道に進むことを決意。3年生の終わり頃には、作品の構想を練っていたと言います。
「カリキュラム的には、卒業制作の企画を考えるのは4年生になってからなんですけど、僕は3年生の終わりには企画を決めていました。高校が芸術系だったので、卒業制作で漆器をつくっていたりしたんですけど、1年くらい時間をかけていたんです。とくに映像作品は、自分ひとりでつくれるものではなくて、キャストやカメラなど、人に協力をお願いする必要があります。だからこそ、脚本やスケジュールなど、自分ひとりでできるところはきちんと準備をしておかないといけないなと」
こうして、高校生のときに出会った、とある心療内科のwebで掲載されていた物語「五感の質屋」を原作に、ドラマを制作することを決めた松田さん。脚本、絵コンテ、スケジュール、撮影場所を考え、キャストは友人や家族のほか、劇団サークルの新入生歓迎公演を観て「いいな」と思う人に声をかけて協力してもらったのだとか。
「撮影場所も、成安のあちこちで撮影しましたし、僕の家や、祖母の家でも。自分のコネクションを最大限に使ってキャスティングして、ロケ地も機材も、使えるものを全部総動員した感じです(笑)。やりきりました」
入学したとき、4年後に“やりきった”と言える作品がつくれることを想像できていたか? と松田さんに尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「なるやろうなと思ってました。というか、“できない”って選択肢はなくて、かといって、すぐにつくれるようになるわけでもない。だから、なんとなくでも、自分が求めるものは思い浮かべておいて、それまでに何が必要か? を考えて、順番にそれをやっていくしかないんです。そのためには、先生も大学も利用したし、知り合いのそのまた知り合いまで繋がりを持って、吸収できるものを吸収して。大学の4年間は、制作もそうですけど、軽音部や学生会など、いろんな種類の時間がありました。卒業制作だけでなく、僕の時間イコール、ほかの人の繋がりだったり、そういう人によって生み出された時間でしたね」
入学後に見えてくる、新しい世界や可能性。だからこそ、必威体育ではコースを変更する学生も少なくないと言います。また、領域を超えて仲良くなる学生も多い。とくにアニメーションや映像の分野は、脚本?演出?撮影?編集など、プロの現場ではそれぞれの工程で専門職が必要とされます。
卒業制作は“ひとりでつくるもの”だけではなく、4年間で培った繋がりや出会いを活かしてつくる方法もあるのです。
取材日:2018/03/03
取材?文:小西七重
写真:加納俊輔